ポリウレタン樹脂塗料の使用上の注意
技術資料0321.まえがき
二液形ポリウレタン樹脂塗料(ベースとイソシアネート基を含む硬化剤とをセットにした常温乾燥形塗料)は常温硬化でありながら、熱硬化形と同様な強靭で対侯性に優れた塗膜を得ることができるために、現在では、自動車、車両、建築、建造、木工などに広く使われています。この二液形ポリウレタン樹脂塗料は硬化剤にイソシアネート化合物を使用しています。イソシアネート化合物は反応性が強く、粘膜や皮膚に触れるとかぶれを起こしたり、気化した蒸気や硬化剤に配合した塗料を噴霧状態で収入すると中毒症状を起こすことがあります。したがって、二液型ポリウレタン樹脂塗料の使用に際しては、安全衛生上常に十分な防護措置を講じる必要があります。
2.イソシアネートについて
対象製品の硬化剤は、イソシアネートを重合させてポリマーにしたもので、不揮発性で毒性の高いものではありません。しかし、この中には通常、微量(0.5%以内)の未反応のイソシアネートを含み、これが揮発性があり、強い毒性を持っています。
■2-1塗装すると、この未反応イソシアネートが揮散し、特有の悪臭を発します。そして長時間この蒸発に接すると次のような中毒症状を呈します。
- 軽症の場合・・・不快感・頭痛
- 中症の場合・・・喉頭炎と同様な症状
- 重症の場合・・・ぜんそく状の気管ケイレンをともなう発作
したがって蒸気やスプレーミストを吸い込まないことと、作業の換気をよくする必要があります。塗装方法もミストが飛ぶスプレー塗装よりもはけ塗りやローラー塗りを優先します。
■2-2イソシアネートを含む塗料が皮膚や粘膜に触れると、充血したり、はれたりする炎症を起こすことがあります。人によってはカブレを起こすこともあります。したがって、塗装作業中は塗料が直接皮膚や粘膜(目や鼻など)に接触しないようにし、付着したら直ちに洗い流すことが必要です。
■2-3イソシアネートによって一度炎症にかかったりすると、身体がイソシアネートに対して敏感になり、イソシアネートに触れるとすぐに再発するようになることが知られています。したがって、後に述べるように、保護具の着用を厳守し、中毒や炎症にかからないようにすることが大切です。気管支炎にかかりやすいなど、呼吸器系が敏感な人や、既往症のある人、皮膚カブレを起こしやすい人、アレルギー体質の人は、はじめから塗装作業などに従事させないようにすべきです。
3.塗装作業上の注意事項
■3-1塗料やスプレーミストを皮膚や粘膜に触れさせないでください。
- 対象製品を取り扱うときは、作業衣・手袋・フード付きの帽子などによって、露出部がなくなるように身体を保護します。えり首のタオルを巻き直すときは、塗料の付着面が直接肌に触れないようにするか、清潔な別のものと取り替えてください。
- 露出部には、保護クリームを塗ってください。(作業終了後は洗い落としてください。)
- 保護めがねは必ずかけてください。
- 塗装者でなくとも、塗装作業場に入りスプレーミストに触れる可能性のある人は同様な装束をつけてください。
- 飛沫がかかったときは、目の場合は直ちに大量の水で洗い、迅速に専門医の手当てを受けてください。皮膚(保護クリームを塗っていない)の場合は直ちにシンナーで拭き取ったのち、石けんと水でよく洗い落としてください。
■3-2スプレーミストを吸い込まない。これはもっとも重要な注意です。
塗装の際に、塗装者はJIS T 8153に合格する送気マスクを必ず着用してください。
- 屋外の換気のよいところでの塗装や、屋内でも短時間の塗装であれば、JIS T 8152に合格する有機ガス用防毒マスクでも結構です。なお、この場合はマスクの吸収缶はマスクメーカーの指示を守り、必ず適時に交換してください。
- 塗装者でなくても、塗装作業場に入り、スプレーミストに触れる可能性のある人はマスクを着用してください。
- 屋外など、換気のよい環境で、はけ塗りやローラー塗りする場合はスプレーミストが飛ぶこともなく、揮発物の臭いがほとんど気にならない場合で、小規模で短時間の塗装であればマスクを省略しても実際には支障は少ないと判断されていますが、原則はどのような場合も「マスク着用」を遵守してください。
■3-3硬化の不十分な塗膜を研磨したダストは、皮膚や粘膜に触れず、また吸い込まないでください。対象商品の硬化が不十分な塗膜を研磨したとき、そのダストにより同様な障害を起こすことがあります。ダストが直接皮膚や粘膜に触れないよう、また、吸い込まないように、保護具とマスクを着用してください。
4.設備上の注意事項
対象製品の多くは、第2種有機溶剤を使用しており、「有機溶剤中毒予防規則」や「消防法」などによって、作業上の環境をつぎのように整えることが義務づけされています。なお、この注意事項は本資料のテーマであるポリウレタン樹脂塗料の使用上の注意に限らず、第2種有機溶剤を使用する塗料に共通しています。
- スプレー塗装の場合、ブースの制御風速は「有機溶剤中毒予防規則」第16条に従い、一定値以上が必要。
- ブースの排気口から外部にスプレーミストがもれないように、水洗、もしくは瀑布などによるミストの除去装置の設置が必要。
- 塗装作業中は、作業現場内の換気を十分に行い、大気中の有機溶剤濃度が許容密度(溶剤の種類によって異なるが対象塗料では約150ppm)以下にする。
- 強制乾燥を行う場合は、溶剤の蒸発濃度が爆発下限界(溶剤の種類にもよるが、容積比で約1.1~7.1%)の1/4以下に管理する。(例:トルエンでは、約14g/m3以下)
- ジェットヒーターなどの直火加熱方式は、引火の危険性が非常に大きいので使用しない。
- その他、作業場内の照明器具、モーター、スイッチなどスパークする恐れのある器具は防爆型を使用する。
使用されるどのような材料にも、多かれ少なかれ何らかの危険性が潜在します。その危険を知り、適切な予防法をとることで、安全を確保しながら大きな成果が得られます。皆様のご理解とご協力を重ねてお願い申し上げます。