技術資料

塗膜厚の測定について

技術資料018

塗膜厚の測定は、塗装が設計どおりに行われているかどうかを確認する大事な方法のひとつです。ところが、この膜厚測定には、測定機種や測定容量によってばらつきが生じやすく、トラブルが多いようです。このバラツキについては種々の角度から検討がなされていますが、現時点で、これを完全に理解し、共通の意見として集約するのは時期尚早と判断されます。ここでは、一般的に採用されている測定方法を参考にし、どのようなバラツキがあり、どのように理解されているかを簡単にまとめてみました。

1.測定器の種類

現在、一般に採用されている塗膜厚測定器には次のようなものがあります。

  1. 磁石を使用したタイプ(Pull-Off Gages)
    永久磁石の素地鉄板にタイする吸引力が、塗膜の厚さによって変化することを利用したもので、マイクロテスト(Microtest)やインスペクター(Inspector)がこの代表です。
  2. 電磁式を使用したタイプ(Electromsgnetic Gages)
    塗膜厚により、鉄心入りコイルの磁束と自己インダクタンスが変化するのを利用したもので、ケットの電磁微厚計(L-1B型)やサンコーのミニテスターがこの代表です。
  3. 磁石を電磁式に利用したタイプ(Fixed Probe Gages)
    塗膜厚により、コの字形をした永久磁石の間に流れる磁束の変化を利用したもので、エルコメーター(Eloco-meter)やミニテスター、パーマスコープがこの代表です。

これらの測定器そのものの精度には、すでに10%程度の誤差があり、これから述べる測定の条件や要領(素地鉄板の種類、形状、残留磁気、測定者の熟練度など)のばらつきが関係し、同じ場所を同じように測定したからといって、どれも同じ測定値が得られるというわけにはいかないのです。

2.ばらつきの種類とその内容

測定の際のばらつきを書き出してみると、次のものがあります。


1)測定器の調整

  1. 測定器が十分に調整されておらず、測定誤差がカタログに示す範囲を超えている。
  2. 標準板に曲がり、歪み摩耗があり、正確に調整されてない。
  3. ゼロ調整に用いる鋼板の厚みが2mm以下である。この2・以下であると磁束が通過し、測定値は実際の膜厚よりも小さい値として再現される。日本国内の各官公庁の塗膜調査の要領で、ゼロ調整に5mm以上が、海外(米国)でのSSPC PA-2 "Measurement of Dry Film Thickness with Magnetic Gages"で3.2mm以上の厚みの鋼板が指定されている理由は
    ここにあります。

2)被測定物の鋼材種類

日本鋼構造協会(JSSC)鋼橋塗装研究班の「塗膜の測定に関する試験報告会」によると測定器の種類に鋼材の選択性(表1)があり、次のようにまとめられています。

  1. 鋼材の違いによる誤差は、イシスペクター(磁石タイプ)が一番小なく、このタイプは鋼種にかかわらず使用できる。(SS-41鋼板に比べて10%以内)
  2. ケットとミニテスター(共に電磁式タイプ)は、SS-41,SM-50,SM-55までの鋼材では誤差は少ないが、SM-60,HT-80,HT-100の鋼材では誤差が大きくなる。このため、被測定物と同じ鋼材でゼロ調整や標準板の調整を行う必要がある。
  3. エルコメーター(磁石を電磁式に利用したタイプ)も鋼材に種類によって差が大きく、被測定物と同じ鋼材でゼロ調整や標準板の調整を行う必要がある。

以上から判断すると、「電磁式タイプ」と「磁石を電磁式に利用したタイプ」では、鋼材の選択性があり、ゼロ調整や標準板の調整を行う場合は同じ種類の鋼材面で行うのが無難であり、これが困難な場合は「磁石タイプ」をできるだけ選択する必要があります。
(表1「各測定器種別の各種」参照)

■表1.適用の除外

測定機器 計器調整
の厚さ
(μm)
測定板の
厚さ
(μm)
測定値(μm)
SS-41 SM-50 SM-55 SM-60 HT-80 HT-100
Kett L-1B
(電磁式を使用
したタイプ)
0/50 50 50 48 50 65 65 62
50 49 51 65 65 63
50 48 51 66 65 63
100 98 100 100 125 122 118
99 98 100 125 122 119
98 98 101 125 124 119
183 182 182 184 208 205 200
183 181 184 209 204 200
183 181 185 209 205 200
ミニテスター
(電磁式を使用
したタイプ)
0/50 50 50 49 65 70 75 97
50 49 55 67 70 71
50 54 52 66 66 65
100 108 100 107 125 123 140
103 103 100 125 135 125
110 101 103 112 114 122
183 180 178 194 214 225 220
182 182 187 220 210 220
187 182 190 214 212 203
インスペクター
(磁石を使用
したタイプ)
なし 50 57 58 51 57 52 65
48 53 52 33 52 52
56 52 60 50 57 55
100 93 100 105 100 98 97
97 100 99 110 96 100
92 105 90 115 92 100
183 170 200 170 190 178 170
175 190 173 195 180 182
175 180 180 180 188 175
エルコメーター
(磁石を電磁式に
使用したタイプ)
0 50 52 58 75 33 98 175
50 63 63 44 108 155
55 64 65 40 80 168
100 100 107 127 73 137 >250
95 110 123 82 168
95 110 118 85 147
183 163 190 220 123 >250 >250
175 175 213 153
185 187 225 160

3)鋼材の表面あらさ

SSPCの膜厚の測定要領

図1.SSPCの膜厚の測定要領

平滑な鋼材面での塗膜厚測定は、割合に正確であることは顕微鏡と計測器を使った実験で確認されていますが、鋼材の表面のあらさがある場合は、簡単にはいきません。鋼材の表面のあらさは、ブラスト処理によるアンカーパターン以外にも「さび」や「ミルスケール(黒皮)」などによるあらさも考えられます。これらはやはりばらつきの原因となります。SSPC PA-2によると、平滑な標準板において調整した測定器で、これら「アンカーパターン」「さび」「ミルスケール」の厚みをまず測定しておき(図1のA)、塗装された塗膜厚を同じ方法で測定し(図1のB)、この差すなわち、BからAを引いて塗膜厚とする方法でこの表面あらさの影響を解決しています。

4)測定する個所と周囲環境

SSPC PA-2においては次の注意が上げられます。

  1. エッジ、コーナー、穴の近くでは磁束の関係で膜厚が厚く得られます。このため、これらの部分から最低2.5cm以上離れて測定すべきです。
  2. 被測定物の構造が複雑で多くの鋼材で組み合わされている場合、この鋼材どうしの磁力の影響もあり、これらの接触部から最低7.6cm以上は離れた個所から測定すべきです。
  3. 溶接および発電装置とその配線などは強い磁場を示します。このため、これらを避けて測定すべきです。
  4. ほとんどの測定器は、4~49℃で正常に作動します。極端な温度条件では正しく測定器が作動するかどうかの確認が必要です。
  5. 振動も測定に誤差を与えるので注意が必要です。

5)測定者の熟練度

建設省土木研究所防食研究会の報告では、測定者が熟練すればするほど、どのような測定器を使用してもばらつきが少なく、一方、熟練度が低いとばらつきが多く、厚めに測定するとしており、このばらつきにも注意が必要です。また、測定値の繰り返しでは、SSPC PA-2では、測定した値が異状な値を示し、繰り返しとして妥当でない場合は、その測定値を無視してよいとあり、妥当な繰り返しはそれぞれの値の差が5μm以内であるとしています。

6)塗膜の乾燥性

塗膜の乾燥が充分でないと、測定するプローブ(Probe;測定の端子)の重さや固さで塗膜がへこみ、ばらつきが生じる。先の建設省土木研究所の報告で、いろいろな塗料の種類について、乾燥日数と測定値の関係を調査していますが、やはり、乾燥性のよくない油性系塗料などは測定値にばらつきが大きいと報告しています。さらに、一般的に測定が充分に可能と思われる乾燥日数は15日では、測定器種によって大きくばらつき、1年近くしてはじめて、どの測定器種を使用しても安定した測定値が得られるという興味ある結果が報告されています。

以上のようなばらつきを考えると、我々はいったい何を測定しているのだろうかと不安を感じずにはいられなくなるが、このように測定結果には多くのばらつきがあるからこそ、塗膜厚の測定に際しては、当事者がお互いにその測定内容を良く理解し合い、無用なトラブルを回避しなければなりません。