異例づくめで始まった
共同開発プロジェクト
自動車の外装用塗料には、トレンドに左右されることのない金属調や宝石調、ツヤ消しなどの意匠ニーズが常にある。関西ペイントはそれらに対する基礎研究を絶え間なく続けており、平塚開発センターに勤務していたM.Iも日々、新たな色材や金属調意匠の開発に取り組んでいた。そんな中で2016年、顧客である大手自動車メーカーへ新製品を開発し提案する大きなプロジェクトが始まった。自動車生産ラインで行う塗装品質の刷新を考えていたお客様との、これまでにない新規塗料の共同開発だった。求められたのは、極めて格調高いデザイン性を表し、環境への影響度が少なく、既存のライン設備を使って生産性を落とさず塗装できる金属調シルバーだ。関西ペイントは溶剤系塗料で先行して金属調意匠を達成していたが、それでは当然環境に負荷がかかる上、お客様の塗装工程も複雑化してしまうことが間もなく判明した。一方、環境にやさしい水性塗料は、既知の技術ではお客様の要望に沿う高度な意匠が表現できないこともわかった。
「かつてない意匠と高機能・高生産性を実現するまったく新しい水性塗料が必要となり、材質、塗料組成、塗装工法などあらゆる面で未知の領域への挑戦になりました。しかも、通常は塗料の開発から設計、生産フォローを分業して進めるのですが、今回はお客様の意向もあってそのすべてを同時進行で、一局体制で行わねばならなかったのです。それまで研究所にいた私はお客様と折衝しながら開発するのは初めてでしたし、即座にお客様先に近い部署への転勤も決まって、これは大変なことになったと冷や汗が吹き出しました」と、M.Iはプロジェクトスタート時の心境を話す。