類いまれな広範囲の
営業アプローチを要した
2020年2月に竣工した東京アクアティクスセンターは、オリンピック開催時の観客席数1万5千を有した国内外トップレベルの規模を誇る水泳場である。延床面積64,400㎡の巨大な建築物を形成する主要鉄骨部分をはじめ、約7,000tもの大屋根を彩るアルミ意匠パネルなど、建物全体に防食用や高耐候用のほか大量の建設用塗料が使用された。関西ペイントグループがその塗料納入の指名獲得を目指す新プロジェクトを立ち上げ、活動を開始したのは2016年初頭。当時、数々のプロジェクト案件を担当していたM.Nを軸とした営業推進チームが組織され、防食用塗料に専門性を発揮していたM.Oと、工業用金属塗料を幅広く手掛けていたK.Tが中核メンバーになって参加した。プロジェクト実行に乗り出した3人が早速直面したのは、世界中の注目を浴びるオリンピック向け施設ならではの営業的難問だった。
「建物に使用する塗料等さまざまな部材に関しては、まず施主である東京都をはじめオリンピックの大会組織委員会や各スポンサー企業、施工を担う大手ゼネコンや設計会社ほか、多岐にわたる発注関連団体・企業の認可を得る必要がありました。通常にはない広範囲な営業アプローチが必須となった上に、短期間で成果に結び付けるための社内体制の整備が急務となりました」とM.Nがプロジェクト開始時の困惑を回想する。
建物自体に要する建設期間を踏まえると、並み居る競合他社を押しのけて関西ペイントが塗料分野のメイン指名を得るまでに残された時間は少なかった。また建設業界の慣習を考慮すれば、これほど大規模かつ公共性の高い建設用塗料すべての一社独占納入はほぼ不可能と言えた。3人は各々の知見と経験を駆使し、建物構造の大半を占める鉄骨用と大屋根用の塗料受注にターゲットを絞って力走し始めた。