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塗料で人を幸せにする

はじめに

私が社長に就任して今年で7年目になります。2025年4月より3カ年の第18次中期経営計画がスタートし、私が主導する中期経営企画は3回目となります。負の遺産の解消に取り組んだ16中計、新たな成長軌道を描く17中計、そして今回の18中計は「塗料で人を幸せにする」というビジョンを定め、中長期視点で新たな、そして、大きな一歩を踏み出します。後世に負の遺産を残してはならない、という悲壮な覚悟で社長に就任した2019年と今の心境には隔世の感があり、大方の問題は対処を終え、当社の高いポテンシャルを発揮し始めている中で、夢と希望に向かう中計を主導できることに喜びを感じています。当社は年々改善を進めていますが、この背景として「問題を直視する」「問題を先送りしない」という経営メンバー全員の固い結束があります。

そのうえで、お客様、株主の皆様、社員、そして経験豊富な社外取締役の声に耳を傾け、対話をしながら、ともに経営してきたことが改善の原動力となっています。この場をお借りして経営改善に貢献いただいているステークホルダーの皆様へ深く感謝するとともに、これからも同様の方針で対話を重視しながら最善策を取っていくことをお約束します。


17中計の振り返りと社長としての総括

ちょうど17中計が終わったこの機会に、現時点で私が感じていることをお伝えしたいと思います。外部環境の変化が続くこの3年間、事業成長における不確実性という難題を実感しています。一方、社内の変革は大きく進み、2023年度に史上最高の売上、利益を達成できました。変革を通じて、当社グループの底力と大きな可能性を見出しており、社内には数多く頭角を現しつつある人材も出てきています。そしてこれは、私たちが全力を尽くしているからこそ言えることですが、結果として、当社の現状での限界も見え始めており、変化の著しい世界の中で成長を続けていくには、今よりも高い視座、広い視野で考え、リスクをとって果敢に挑戦する必要があり、その具体的なポイントが明確になったことは数値以上の価値があると考えています。良い点として、まずは、ガバナンス面での改善です。監査等委員会設置会社への移行を機に様々な改善を進め、監視機能の強化と権限委譲による経営スピードの向上が進みました。取締役会を頂点に、執行側では17中計期間中に参画したプラヴィン、プレジェイという2人の海外人材がグループ経営に参画し、新たな視点を提供してくれています。彼ら自身もインドやアフリカでの経営にグループ経営の視点を持ち帰り、経営のグローバル化が進んでいます。

事業面では、日本セグメントの変革の進展で収益性が向上し、当社グループのリーダーとしての存在感を示し始めました。事業継続を決めたアフリカも急速に力をつけており、業績を引き上げる側になってきました。さらに、自動車用塗料の収益性を大きく高めることに成功し、売上の拡大と収益性の改善を両立しています。次の柱と定めた工業用塗料では、戦略的に強化している鉄道車両用、建機・農機用、粉体塗料それぞれにおいてボルトオンM&Aを通じた新たな技術、顧客、ネットワーク、そして優秀な人材を獲得し、グローバルで事業を伸ばす布石を打つことができました。これらの挑戦を行うためには強固な財務的基盤を有していることが大前提ですが、財務基盤についてもより積極的で、ステークホルダー全てに還元しながら成長していくための循環を強化してきました。一つの結実点として最適資本構成及び株主還元ポリシーを定め、当社の成長を担保する優秀な基盤を構築することができました。このように多くの変化を起こし、実行してきたことが直接的に最高業績の更新につながっていることが17中計の大きな成果です。

一方、これらの挑戦をしていく中には、うまくいかなかったことや失敗してしまったこと、そして何かを成し遂げた結果明らかになった課題も数多くあります。最も象徴的だったことは、ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行でした。良策であると判断して実行しましたが、アナウンス後にたくさんの株主の皆様から厳しいご指摘を頂戴しました。当社として、できるだけ多くの方からのご意見に耳を傾け、なぜ問題なのか、どのようにリカバリーして信頼を取り戻していくのかを深く考える大変貴重な機会となりました。

次に、2024年度の業績計画を下方修正しなければならなかったことです。主な理由は、トルコのハイパーインフレや欧州の景気減退、東南アジア自動車市場での中国からの輸入EVの旋風などであり、当社の事業自体は堅調でしたが、当初計画の未達になってしまうという現実を跳ね返すことができませんでした。目標を「最高売上、最高益更新」に切り替え、2024年度の最後の一日まで努力を続けており、5月の決算発表で良い報告ができるように全力を尽くしています。(本記事執筆2025年3月7日時点)これは、当社が外部環境の圧力を跳ね返していくだけの力がまだまだ足りないということを明確に浮き彫りにするもので、次の課題です。そして、この悔しさと反省を18中計にしっかりと生かしていきます。

課題としてもう一つ、触れなければいけないのは、2025年2月28日に日本国内で、一般財団法人日本塗料検査協会よりJISK5659のJISマーク表示の一時停止の通知を受けた件です。取引先の皆様をはじめ、関係者の皆様に大変なご迷惑とご心配をおかけしており、心からお詫びを申し上げます。再発防止策を徹底し、一時停止措置の早期解除と信頼回復に向けて全力で取り組む所存です(本執筆後、2025年3月25日に一時停止が解除されました)。ここに示した例は全体の一部ではありますが、成功と失敗は表裏一体であるということを実感しています。例えば、前述したCBの失敗により多くのことを学び、最適資本構成や株主還元方針の見直しにつながりました。JISマーク表示の一時停止の問題については、取締役会での議論を踏まえて品質保証の実態調査を徹底的に行うことを決めて実行する中で当該製品へのJIS K5659のラベル誤表記が発見され、直ちに日本塗料検査協会及び経済産業省への報告をするに至ったという経緯もありました。また、中国EVメーカーの東南アジア輸出拡大を機に当社の中国における持分法適用会社である湖南関西湘江関西塗料有限公司(湖南関西)との連携を強化し、湖南関西を通じて、これまで参入できていなかったBYD社との取引が始まるなど、新たな機会を獲得する契機となりました。

これらのことから総括すると、企業活動や経営とは挑戦であり、挑戦をすると成功がある半面失敗もあります。そして、この循環の中で最も大切なことは、失敗したことを正面から受け止め、小手先ではなく、本質的に解決していくことである、ということです。企業としては、当社の現状の実力はROEで13%、EBITDAマージンは14 ~15%というレベルであると考えています。グローバルで事業を展開する以上、全ての地域、事業が順風満帆ということはあり得ず、良いところが良くないところをカバーする、という構造で安定的に業績をつくっていく必要があります。当社は過去5年間でこの最適化を進め、最高益を更新していくサイクルをつくることには成功しました。しかし、今後、これ以上の成果を出していくには、サプライチェーンそのものを大幅に見直し、効率性向上により収益性を高めていく必要があります。16中計、17中計の6年間でやるべきことを実行した結果、明確になったものであり、次の目標へとつながっていきます。17中計では、自社の最高業績を塗り替えることができました。今後は目線を世界のトップ企業に向けて挑戦していく、それが18中計からのテーマです。規模を追いかけるのではなく質を追求する、特に効率性と収益性において世界最高峰を目指すことが今後の当社の目標です。

新たなビジョン 「塗料で人を幸せにする」について思うこと

18中計策定にあたり、あらためて当社グループのミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を再構築しました。ミッションは過去から継承した社是で、今もこれからも、そして日本のみならず世界に通用する素晴らしい内容となっています。細かなことですが、一点だけご説明しますと、従来の社是の中に「和と協調につとめ、総力を結集する」という文言がありましたが、「和」と「協調」の意味合いが曖昧で近しいものであるため、本当に伝えたいことは何かを考え、「協調につとめ、総力を結集する」とシンプルにしました。バリュー、つまり価値観も創業から不変である「利益と公正」です。ここでいう利益とは損益計算書上の利益でなく、もっと大きな意味での利益を指します。利益も公正も、ともすれば哲学的でわかりにくくなるため、今回の再構築にあたり、「正しいことをしながらより多くの資金を創出し、その資金を寝かせずに将来のために投資していく。これが循環し、規模を拡大することで世の中への貢献度を高めていく」と具体化しました。私も若い頃からこの利益と公正の概念を先輩方から教えられてきました。残すべきところはしっかりと残し、世代を超えて関西ペイントグループの精神を受け継いでいきます。

新しく定めたのが「塗料で人を幸せにする」というグループビジョンです。海外メンバーや取締役会を含めて当社は何のために存在するのか、という徹底的な議論から紡いだ至極の言葉と考えています。当社がつくり出す製品やサービスで人を幸せにできれば、結果として当社が世界から必要とされる、必要とされることで企業価値が高まる、この順番と循環が重要です。当たり前に見えるかもしれませんが、このビジョンで全員の目指す方向が明確になり、手段が目的化することを避けられます。当社のような事業会社は事業を正しく伸ばしていくためにあらゆることに心を砕いていかなければなりません。会社がどれだけ大きくなろうとも、常に人の心を大切にして、人と人のつながりを強くしていく企業になっていこうというビジョンです。このビジョンは当社グループの社員全員のよりどころとすべきことであり、直接塗料の開発、生産、販売に関わるかどうかは関係ありません。社員には、社内外で関わった人に「あなたと関わって良かった」と思ってもらえるような素晴らしい仕事をすることが当社ビジョンの体現であると伝えていきます。時価総額や売上規模、グローバル展開など、事業のスケールが大きくなると勘違いしがちですが、本質は社員一人一人の心に宿ったものにより企業はつくられていく。この点を決して忘れてはならないと考えています。

18中計にかける想いと注力ポイント

私が知る限り、18中計はこれまでで最も入念に準備したものであり、立ちはだかる壁を乗り越え、将来に向けた持続的な成長の土台をつくるチャレンジングな内容です。3カ年の計画であると同時に、2030年までにEBITDAマージン18%、ROE16%の達成、非財務目標「KPI2030」の達成を確かなものにする長期的視点を加味しました。それぞれの目標指標が到達点ではなく、当社グループが人を幸せにする企業であると世界中で認めていただけるようになるための物差しとして、各目標を達成していくことが重要であると考えています。そして18中計は、MVVを具体的な戦略、計画に落とし込んでいるとおわかりいただけると思います。注力ポイントは事業を伸ばすこと、そして、事業を伸ばすために必要な変革を確実に推進することの 2つです。これまでの事業・地域ポートフォリオの最適化、バランスシートのクリーンアップ、資本政策の改善による資本効率向上、キャッシュ重視への経営変革を礎に、18中計では事業成長を加速し、成長加速に必要な要素を刷新していきます。この 2つの注力ポイントを実行するための事業はビジネスユニット、事業を強化するための変革はヘッドオフィスが司る組織に改編しました。

事業成長については、まず、世界最強と自負する自動車用塗料分野をより強化します。他塗料メーカーでは「儲からない」と言われている分野であり、グローバルに供給体制を持つ塗料メーカーは当社を含めて世界に5社しかありません。当社はその中でも最も成功している企業であり、この強みを研ぎ澄ませて、EV、自動車部品やオートバイをはじめ、ドメインを車からモビリティに拡大し、自動車産業に訪れている大変革期を飛躍のチャンスに変えます。そして、自動車分野での成功モデルを工業用へと広げます。手始めに鉄道用塗料、建機・農機用塗料を事業部として独立させ、自動車と同様のグローバル組織に改編します。リード役は欧州のKansai Helios Coatings GmbHで、自動車以外でグローバルビジネスに挑戦することやリーダーが日本ではないことも含めて初の挑戦であり、非常に楽しみです。自動車や工業のようにグローバル化すべき事業と、各国で地域に根差して進めるべき事業をそれぞれの特性に合わせて適切に戦術化します。

地域に根差すべき事業は、各地域にある課題を解決することで、市場におけるシェアを伸ばしていきます。日本はサプライチェーンの効率を高め、収益性をさらに高めます。インドでは工業用塗料分野の拡大、建築用塗料分野の立て直しに注力します。欧州は収益性の改善に集中し、東南アジアでは自動車産業構造の変化に対応していきます。アフリカは「ONE AFRICA」構想を進め、インドの次の成長エンジンに育てるべく、盤石な足場をつくります。このように強化していくべき事業とそれぞれの方向性は明確です。各戦略の実行に加えて成果を出していくために、各事業部門がベストを尽くしていくことと、全社として必要な変革を並行して進めていくことが18中計の全体像です。

事業を伸ばすために必要な要素の刷新

事業の成長加速に必要な要素を刷新していくためにヘッドオフィスを設立しました。例えば、現在100日前後であるキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は成長における全社的課題です。CCCを改善していくには、世界中のサプライヤーや自社の生産形態やプロセス、物流配送、販売形態、お客様との関係など、多岐にわたる改善が必須で、これは地味な努力の積み重ねが成否を決めます。こうした全社を俯瞰した変革テーマを見出し、企画、旗振りをして、事業部門の変革を支援することがヘッドオフィスのミッションです。このミッションにおけるいくつかのテーマを具体的に紹介します。

まず、グローバル人事制度についてイチから設計し、次の3年間でグローバルに人材の最適配置を可能にする環境を作ります。グローバルで活躍したい、または、できる人材が世界中で働くことができる共通のルールと環境を整備します。過去にはグローバル化を進めようとした際に、表面的な動きにとどまってきた苦い経験が何度かありますが、今回は、役職や報酬差異などの難しい問題を避けずに、真のグローバル化を果たす強い覚悟を私自身が持ち、必ず実現します。

次に、研究開発領域への注力です。これまでも、お客様企業が求める塗料を開発することは得意でしたが、これからの成長のためには自らの目で見て、自らの足で探し、自らの手で新しい価値を生み出す能力を磨いていかなければなりません。この際大切なことは、販売で成功することで初めて製品を開発した意味が生まれるということです。いくら良いと思っているものを開発しても市場に選ばれないということは、良い製品である世の中に認められていないことと同義だからです。BtoBを中心とした「お客様企業のご要望にお応えする商売」に加え、多様な企業や機関などと共創に取り組み、世界に貢献する製品・サービスを開発するグローバルな研究開発投資を拡大していきます。

刷新テーマの全てに共通するキーワードは、DXと財務です。当社グループのIT分野の拡充は目覚ましく、いよいよ真の意味でのDXと呼べる土壌ができてきました。日本アイ・ビー・エム株式会社との戦略的パートナーシップも年々進化し、18中計をDX黎明期、その次の19中計をDX導入期と位置づけ、データレイクの開発、MIや生成AIの活用、これらを使いこなすことができる人材育成に投資を続けていきます。こうした領域への注力には、財務基盤をより強靭にしていくことに加え、投資する判断基準を明確に、適切に持つことで「良い案件」に集中し、投資した後には適切なモニタリング検証を行ってROIを高めていきます。18中計の進捗を都度ご紹介する機会が継続的にありますので、これらを踏まえて皆様と前向きで建設的な対話をさせていただければうれしい限りです。

企業価値を高めるための共同経営

ここまで私自身の言葉で当社の将来をどのようにつくっていくかをお話ししました。しかし内容そのものは、ステークホルダーつまり、本メッセージを読んでいただいている皆様との対話を具現化したものにほかなりません。社長経験を積み重ねた結果、経営とは社長や執行メンバーのみが行うものではなく、当社に価値を見出し、価値を拡大していきたいと願う人々との共同経営だということをつくづく感じます。皆様には、当社の共同経営に参画していただきたいと願っております。

代表取締役社長