トップメッセージ

Top Message

社長メッセージ

はじめに

Greatな企業を
目指して
代表取締役社長
毛利 訓士

私が社長に就任して5年目に入りました。2019年に社長に就任以来、日々の一日一日はとても濃密で数多くのことに取り組んでおりますが、振り返ってみるとあっという間だというのが実感です。この4年間、当社の変革を進める中、これでもかというほどの外部環境の変化が起こり、例えれば、船を修理しながら航海していた中で嵐になり、海図が役に立たない状況に置かれた船の船長のような気持ちです。今も嵐は止まず、将来を見通すことは困難でありますが、これまで、その中を生き抜いていくこと、そして、常に明るい未来を描き、自ら将来を切り拓くという覚悟をもって進めてきました。その結果、当社は変わり始めています。今回の統合報告書では、できるだけ皆様に当社の活動を知っていただき、また、当社がGreatな企業に変貌していくためのコミュニケーションの土台になることを目的として昨年からの改善をさらに進めております。今後、皆様と良い対話ができることを心から願っております。私にとっても普段は業績や財務、戦略等のお話をすることが多いので、今回は少し違う角度で私が社長になってからの振り返りと今後の展望をお話ししたいと思います。

社長としての覚悟

2019年に社長に就任した時は、先の第14次中期経営計画(以下、14中計)、15中計で急速に拡大した海外拠点と事業の展開にグリップが効かず、結果として海外事業の収益性の低下が止まらないという状況でした。当社だけでなく、世の常だとは思いますが、全体がうまくいっている時は良いのですが、一度歯車が狂いだすと大小様々な問題が起きるものです。当社も新興国の成長スピードの鈍化に合わせるようにガバナンスが低下し、かじ取りを一つ間違えば大きな危機に直面しかねない、という状況での船出となりました。社長を拝命し社長として当社を冷静に見ると、自らの責任の重たさをひしひしと感じ、大いに悩みました。当時の私の偽らざる心境は戦略や戦術をどうするか、というよりは、100年続く関西ペイントの看板を守り抜くことと、このような状況で社長に就任するのは私で最後にしなければならない。常に前向きな挑戦をしていく会社にする、という2つの覚悟でした。

そこからは全ての責任は私にある、正真正銘のラストマンという決意のもと、事業撤退や、責任を明確にした人事異動等、当社が苦手としてきた「課題への聖域なき対処」を一つ一つ進めていきました。いわばマイナスからのスタートで、正常な状態に戻すことを目的として策定、実行したのが16中計でした。

財務構造改革

16中計を語る際に最も大切なポイントが財務構造改革であります。何事をなすにも強固な財務と資産の有効活用が前提となると考えたためです。幸い、当社は安定してキャッシュを生み出すことができ、固定費も比較的大きくないすばらしい事業モデルを持っています。しかし、これまでこの特性を十分に生かせていませんでした。当社の稼ぐ力の指標であるROICは6%強ですが、これを下回る低収益の事業や不動産、保有株式などを手放さずに多く持っていました。これらの資産を圧縮し、事業で生み出すキャッシュと合わせて手に入れる潤沢な資金を将来の成長のための投資に積極的に振り向けていく。このようなサイクルをつくり出すためにはバランスシートとキャッシュフローを重視し、そのうえで資金の調達元を見直し、経営効率を高めていくことが全ての活動の源になると考え、就任後直ちに着手しました。

ガバナンスの改善

もう一つ、就任直後から着手したのは、海外事業の立て直しです。業績を立ち直らせるには戦略や戦術の有効性を高めなければなりませんが、そのためには、まず、社内で建設的に議論され、改善を進めていく仕組みがしっかりしている必要があります。一般にガバナンスといわれる領域で難しく感じますが、「経営がうまくいく仕組み」と理解すれば日常のいろいろなこととつながっていきます。日常の問題意識をガバナンスという見方で整理して会社の仕組みを改善したり、新たな活動を起こしたり、という取り組みを財務構造改革と対の形で最優先事項として実行しました。
ガバナンスについてはいくつもの個別の課題と格闘しながら、当社を蘇らせるための打開策を探るため、並行して大きく3つの方向から当社の真の課題を正確に把握しようと努めました。1つ目は当社の従業員です。16中計公表後、当社の従業員が何を感じ、どう行動しているかを様々な手法で把握することに努め、就任2年目に業績改善分科会を立ち上げ、従業員から約7,000件の意見を募りました。これを解析して当社が抱える課題の本質を探りました。2つ目は投資家の皆様との対話です。戦略説明会や個別ミーティングの場でたくさんの視点や改善のヒントをいただきました。深く対話すればするほど、投資家と企業は企業の長期的、持続的成長という観点において目的を同一にするパートナーであるということを実感しています。3つ目は外部専門家です。様々な問題の解決にともに苦闘してくれる外部専門家に当社の成り立ち、規程やルールの分析に加え、従業員へのインタビューを通じて文化や行動特性についていっさいの忖度なく調査していただきました。1つ目の施策で当社の従業員のマインドから、個別の問題となる事案がなぜ起きているのかを理解することで当社が潜在的に抱える弱みを把握することができました。2つ目の施策は当社が目指す方向に向かうために改善していくべき本質的な考え方や、大きな方向性を定めていくことに貢献しています。そして3つ目の施策は具体的にいつ、何を、どのような手段で対策していくかを検討するうえでの羅針盤となりました。
初期に行ったこれらの活動は私の新たな原点となりました。このような経験を踏まえて当社の創業の志である「利益と公正」という短い言葉の意味が深く、なんとすばらしいものであるか、ということを本当に理解できたように思います。岩井勝次郎という傑出した人物により創立された当社を誇りに思い、様々な課題に果敢に立ち向かい、社会から求められる企業であり続けることが当社のなすべきことである、という結論に達しました。このためにやるべきことはたくさんありますが、目指すものは「良いものは良い。ならぬものはならぬ。」を当社の従業員全員が実行するという非常にシンプルなものであると考えています。これらを踏まえて、この思いを具体的な戦略と実行施策に織り込んだものが当社の成長戦略“Good to Great”であり、17中計です。16中計と同様、今後も有言実行していきたいと思います。

17中計の1年目を終えて

持続的成長サイクルへの転換期と位置づけてスタートした17中計ですが、引き続き外部環境は厳しく予想ができない激動の中、経常最高益を更新することができました。日本を含むグローバルで一丸となって値上げと原価低減に取り組んできた努力の賜物です。また、16中計で封印したM&Aを再開し、海外で3件実施しました。また、国内ではオンラインに特化した「関西ペイントブラーノ」を立ち上げ、まだ規模は小さいながらも急成長を始めています。このように、内容と結果が伴った非常に良いスタートを切ることができたと思います。

冒頭の社内の課題解決を進めた結果として外部環境の変化に対応する力が少しずつ身についてきたと考えています。私自身はコロナウイルスをはじめ、半導体不足、サプライチェーンの混乱、原材料高騰、ロシアによるウクライナ侵攻、何一つ予測できておりませんでしたが、当社はいずれの困難にもしっかりと対峙し、成果を出すことができてきました。
「人間万事塞翁が馬」という言葉もありますが、課題だらけで社長に就任した時は目の前は暗かったですが、これらの課題解決に向けて明るく、前向きに挑戦していくことで社内の問題を改善するだけでなく、外部環境の激変に対応する力がついてきたわけですから、まさに「人間万事塞翁が馬」であり、「天は自ら助くるものを助く」であると言えます。

人財育成の重要性と人はどのように成長するのか

この自ら助けるという点について少し詳しくお話ししたいと思います。
内外の課題に対処してきたのは全て当社の従業員たちなのですが、これらの難関に立ち向かうことで数多くの人財が目覚ましい成長を遂げています。私はこれを「修羅場経験」と言っていますが、本来、どの職場にもどの仕事にも問題や課題はあり、これを乗り越えるためには修羅場のような場面を乗り越えなければ意味のある改善や解決は望めません。私は生え抜きの社長なので多くの従業員を知っていますが、困難に直面して逃げずに立ち向かう従業員がその経験を経て大きく成長する姿を幾度となく目の当たりにしてきました。
以前はこれらの成長を個人の潜在能力と機会の遭遇、つまり、瓢箪から駒に近い感覚でいました。しかし、この数年の経験を踏まえてこれはまったく違う、人は困難に立ち向かうことで成長する生き物であり、逆に安定した状態に長くいると退化していくのだということを深く理解しました。この理解に基づき、当社の持続的成長を実現するためには、人財の育成が最も大切な使命であると確信を持っています。当社の人財が世の中に貢献することにベストを尽くし、成果を出していくことにより当社が世界から必要とされ、成果を通じて潤沢な資金を生み出し、その資金を成果の質量の拡大に積極的に投資していくことが持続的な成長です。この一連の循環を永続的なものにするためには、塗料の専門的知識や経験を土台にして、4つの力を持つ人財を育成していく必要があります。
1つ目は、当社の真のグローバル化、持続的成長を実現するのは「私たち一人一人」という覚悟です。
2つ目は、最前線で新たな価値を創出し続けられるように、社外の動きを踏まえ、社内の常識や前例にとらわれない思考です。
3つ目は、自身の信念とともに、異なる意見にも耳を傾ける柔軟性を持ち、変革につながる対話を生む力です。
そして、4つ目は、部署や職位を超えて周囲を巻き込み、挑戦する人を支え、皆で成功をもたらすよう促す姿勢です。
当社のこれまでの経験を煎じ詰め、求める人財像を明確にしました。この内容は会社のためだけではなく、各人の人生を豊かに、有意義にする内容であると自負しています。企業と従業員個人の目指す姿を同一にして皆で力を合わせて挑戦していく組織に変革を進めています。

これからの関西ペイント

2023年度は17中計の2年目となり、当社は売上、各段階の利益すべての項目で最高益を更新する内容を計画しています。17中計では16中計で整備した強みを生かした地域と事業のポートフォリオをベースに、当社の文化である挑戦と粘り、信頼を存分に発揮して事業を伸ばしていきます。同時に、この成長していく事業を支え、更に加速させていくための経営基盤の強化に注力していきます。この事業と経営基盤は例えれば車の両輪です。そしてこの両輪を動かしていくのは従業員であり、その育成を最重要事項として取り組んでいきます。

更に、昨年定めたマテリアリティをもう一歩進め、2030年のKPIを本統合報告書で発表しています。塗料は元来被塗物の寿命を延ばす、サステナブルな産業ですが、当社は地球の持続可能性を積極的に高めていく、より魅力的な企業に進化していきます。
新たな成長ステージである17中計3か年の真ん中の年である2023年度は当社が変貌していく分岐点と位置付けております。このためにやるべきことはたくさんありますが、当社の従業員はこれらをやり遂げるポテンシャルを十分に持っています。この先、当社が真のグローバル企業として力強く成長していく姿を皆様にお見せしていきます。是非、当社に期待をしていただきたいと思います。

副社長メッセージ

昨今を振り返って

私は、引き続き“関ペの番頭さん“として、社長や他の経営陣を支えつつ、従業員の皆さんと協力しながら関西ペイントの企業価値を持続的に向上させるべく努力しております。番頭さんとしての守備範囲は広範囲にわたります。CFOとしてのミッションを遂行するのみならず、会社組織内でのチームビルディングやコミュニケーションの円滑化、メンバーの育成とパフォーマンス向上、組織文化の変革など、関西ペイント・グループ全体の発展・成功に直結する重要な役割を果たしています。

お陰様で当社の業績は順調に改善しており、2022年度実績の経常利益は過去最高値を計上しました。また2023年度計画では、売上のみならず、各段階利益(営業利益、経常利益、当期純利益)が最高値を更新する見込みです。ご存じの通り、第17次中期経営計画の重点施策として「収益性強化による資金捻出」「成長分野への積極投資」「経営基盤の強化」の3つを掲げておりますが、ここでは主にCFOとして私が担う役割と各施策の進捗についてお伝えしたいと思います。

関西ペイントにおけるCFOの役割

“資本効率の改善”と“企業価値の持続的向上”に向けて、CFOは極めて重要な役割を担っています。CFOの役割は、経営のグローバル化やスピード化が一層進行する中、大きく変わってきました。従前の関ペも含めた“伝統的な日本企業”における「従来の経理・財務部門の役割」は、会計処理とチェック及び間接金融を中心とした資金調達にあったかもしれません。

現在は、財務戦略の策定や、財務的な洞察に基づく経営陣への助言が主となります。高いビジネスマインドに基づいたビジョンを持ち、社内外に対して“積極的にモノを言う”ことが求められ、ビジネス・パートナーとして社長や他の経営陣と力を合わせて、持続的な事業価値の向上を担っています。

VUCA(不確実性、複雑性、曖昧性、速度)の時代において、CFOとして常に意識すべき重要な事柄が幾つかありますが、私が常に念頭に置く“二つのポイント”を挙げたいと思います。最初は、「データに基づく意思決定」です。CFOである私には、自ずと経営の意思決定に関する重要な情報が大量に集まってきますが、複雑性と曖昧性が増大する中、“正確で信頼性の高いデータ”に基づく意思決定が、これまで以上に重要となっています。適切な財務データのみならず、適切な非財務情報も収集・分析して取捨選択する中で、将来のシナリオを評価する必要があります。データに基づいた洞察を得ることで初めて、優先順位を考慮した戦略的な意思決定を行い、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。一つの大事なポイントは「コミュニケーションと連携」です。VUCAの下では、情報の共有と連携が非常に重要であり、私は他の部門長や経営陣との緊密な連携を図り、意思決定プロセスにおいて、財務の視点を提供する役割を果たすべく努めています。情報の透明性を確保し、社内外の各ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑に行うことも重要であると考えています。

CFOが所掌する業務の具体的な内容や範囲は、会社規模や事業の置かれた環境の違いなどにより、会社によって大いに異なるとは思いますが、関ペにおける経営推進部門長(何でも屋)である私が取り組んでいる優先順位の高いテーマについて、これから述べたいと思います。

財務構造改革の継続的推進

このテーマに関しては、資金調達と資金使途・配分に分けて、17中計1年目である2022年度の実績に触れながら考えたいと思います。

まず成長の原資となる資金調達に関しては、全体として当初の想定を大きく上回る成果を生み出せました。17中計(添付スライドご参照)では、“事業活動、即ち収益拡大・収益性改善による営業キャッシュフローの捻出”を一番大切なポイントと位置づけて、年間400億円、3年間累計で1200億円の目標を立てました。2022年度実績の営業キャッシュフローは502億円と大きく目標を上回っております。原材料価格の高騰、半導体不足、ウクライナ侵攻など厳しい外部環境が続く中、一時的に収益性(利益率)は落ちましたが、価格転嫁や原価低減など様々な対抗施策を講じることで、営業キャッシュフローは確実に拡大しています。

次に、資産圧縮による資金捻出については、低効率事業売却の一環である“アフリカ事業売却”でUS$450MM(株式価値ベース)を見込んでいます。また政策保有株の削減も進めており、今年度Q1実績まで含めると、過去3年間で約500億円の圧縮となり、残りは140億円程度(自己資本に対する比率は4%程度)です。さらに、インドの遊休土地を含めた不動産売却・削減で約150億円捻出しました。ここには、現在予定している大阪本社ビルの売却は含まれておりません。加えて、CCC改善策としての国内売上債権の財務的施策実行により、約150億円の資金捻出となりました。この施策は、日本国内における“歴史的な短期低金利環境”を活用したものです。コストは0.2~0.3%程度と低く、資金は成長投資(ROIC 6%強)へ振り向けられます。CCCの改善は、依然として、関西ペイント・グループ全体の課題となっており、2023年度における重点テーマの一つにも掲げております。特に、海外子会社の棚卸資産回転率の改善に鋭意取り組みたいと考えています。こうした一連の施策を通じて、当社の資産圧縮は計画を大きく上回る水準で進んでいます。バランスシート全体としては、これまでの「もったいない」という状況からは、少し脱却しつつあるのではないかと思います。
次に、資金使途・分配、即ちキャッシュアロケーションに関してお話します。まず、成長投資(Organic Growth)の進捗状況ですが、3年間で1000億円との計画の中で、具体的な進捗を見せています。欧州地域での“ボルトオン型M&A”では、粉体事業をメインとするCWS社の買収を含めて、合計4件で約200億円投資を実行し、継続して他案件の検討も進めております。サプライチェーン刷新や国内粉体塗料事業再編などの“国内事業の再編・効率化”への投資も粛々と進めております。既存事業のメンテナンス・拡大や関西ペイント・ブラーノ社など新規事業開発に加え、IT刷新を含めた“グループの経営基盤強化”投資も着実に進んでおります。キャッシュアロケーションは、継続的なモニタリングと評価が必須であり、市場の変動や経済状況の変化にも迅速に対応しつつ、投資案件のパフォーマンス、キャッシュフロー・回収状況を定期的に評価し、必要に応じて修正や再評価を適宜行っております。
次に、株主様への還元に関する基本的な考え方として、引き続き配当性向30%を目安として継続的・安定的に配当を行います。利益配分に関しては「企業価値の長期的最大化」に向けた成長投資を第一優先とします。欧米の競合他社に比べて配当性向が低いとのご指摘もありますが、当社グループが営む塗料事業は、自動車・工業・建築など非常に裾野の広い需要に支えられており、全体を見ると基本的には安定的な“成長産業”であり、塗料技術の進化と共に着実な成長を遂げています。従って、事業への成長投資を優先し、企業価値を継続的に向上させる事こそが、株主様への一番大切な還元であると考えております。但し、“長期に亘る余剰資金”の発生が見込まれる場合や、“株価水準が不当に低い”と判断された場合には、「機動的な自己株買い」で還元する方針は変わりません。また、企業価値向上の観点から投資家様との関係を強化する上で、適切な情報開示と透明性の向上が重要であると認識しておりますので、コミュニケーションを更に強化することで、投資家様からの信頼を高めたいと思います。
最後にM&Aに関する考え方を述べたいと思います。M&Aの実行に際しては、このディールが“何か新たな付加価値を生んで世の中のためになるのか”、“単なるパイの切り取りで我々が図体ばかりデカくなっても、世の中の役に立たないのではないか”という視点が大切です。そうした観点から、最適な事業ポートフォリオのもとで、関ペの強みを最大限生かせてシナジーを創出する「ボルトオン型のM&A」を最優先させて行きたいと思います。この点に関しては、関西ペイントの過去を振り返ると”非常に痛い目“にあったことが多く、この反省を大いに今後に生かして行きたいと思います。また、M&Aはデューデリジェンスの終了と同時に完了するものではなく、とりわけ重要なのは“ポストM&A”のプロセスだと考えます。当初の目論見通りに事業展開できる総合的マネジメント力が無ければ、M&Aは上手く行きません。過去のM&A案件では、その効果を発揮するまでに時間を要したという反省から、投資判断の段階からPMI(Post Merger Integration)を重点的に検証して行きたいと思います。
M&A資金が必要になる“いざと言う時”には、資本生産性の観点から「関ペの堅固な財務体質」を活用しないのは、“もったいない”と考えます。現在の高い自己資本比率を勘案すると、まだまだレバレッジを効かしながら他人資本(Debt)を活用して、大規模な投資資金を調達可能であると考えております。

ポートフォリオ・マネジメントとROIC経営について

関ペが目指す「ROIC経営」では、投下資本に対する利益の最大化を常に目指します。最適なキャピタルアロケーションを行い、収益性の高いエリア・プロジェクトや事業分野に投資することが極めて大切であり、資本回収の最適化を追求します。その際に重要な事項の一つは“資本コストの考慮”であり、最適な資本構成を実現することにより適正なWACC(加重平均資本コスト)を維持することです。当社の場合、2022年度において自己株式取得によりレバレッジを多少補正しましたが、2023年3月末時点での自己資本比率は43.8%と比較的高い水準にあります。

従って、資金調達において負債の活用余力が未だ残っているものと考えております。リスクとリターンを適切に評価の上、投資収益率が必ずWACCを上回るようにすることで、投下資本の適切なリターンを確保します。
適切な資本構造の確立と共に、非効率な資本投下や不必要な資金調達も避けるべく、低収益資産の圧縮と運転資本の最適化、即ちCCC(Cash Conversion Cycle)の継続的改善にも努め、ROICの向上に結び付けて行きます。
ROIC経営においては、事業ポートフォリオの最適化が非常に重要です。関ペの強みを発揮できる収益性の高い事業に資本を集中する一方で、低収益または損失を出している事業を見直すことで、全体のROICを向上させます。先ずは予算編成の段階において、各々の事業評価やポートフォリオの見直しを確実に行い、リソースの最適な配分を図ることを、各段階、即ち全社レベル(事業部門別)、事業部門レベル(事業分野、セグメント別)で行いたいと思います。これらのポイントを考慮しながら、体系的なROIC経営を展開することで、グループ全体の効率的な資本活用と持続的な収益性の向上を実現します。

ファイナンス人財の育成について

最後に、CFOの大切な役割の一つとして、ファイナンス組織内において“経営管理人財”、即ち一般的にはFP&A(Financial Planning & Analysis)と呼ばれる機能に長けた経理人財を育成することがあります。ただ単に会計を理解して数字を処理するだけでなく、事業部門に入り込んで事業を十分に理解し、重要な意思決定に参画し支えるところがポイントです。この任務を遂行する上では、勿論、高度なコミュニケーション・スキルも必要となってきます。こうした人財を、当社では「ビジネス・パートナー」と称していますが、これは人事・法務やITなどの他の管理部門においても同様で、高度な専門性を備えた人財が事業部門の支えとなることを求めています。このような専門職としての知識や経験は、将来どこでも活躍できる武器となり、次世代の人たちが自信を持って働き、経営に参画することにも繋がるものと考えています。
また、社内の若い世代の事務系社員の方々には、「公的資格」の取得に挑戦することも勧めています。具体的には、「税理士」「中小企業診断士」「社会保険労務士」「販売士」など、仕事をしながらも勉強を続けることにより取得が可能資格のことです。 “飲み会”の数を少し減らすことで、若い時期に「一定の時間とおカネ」をこれらに投資し、“判断するモノサシ”を取得することは有意義で、取得後は自信を持ってYES・NOを言えるようになると思います。会計と英語に興味がある方への私のおススメは「米国公認会計士(US CPA)」でして、私も働きながら40歳の時に取得しました。会計のみならず、経営に関わる体系的な知識は今でも非常に役に立っており、自分自身のキャリア形成においても貴重なイベントでした。
当社内には、終身雇用をベースとした年功序列制といった“典型的な日本企業の仕組み”の下で、比較的ノンビリ過ごしてきた方もいます。“真のグローバル企業への変革”を目指す上で、「活力」「熱意」「能力」を兼ね備えた社内人財を育成すると共に、必要なポストには優れた外部人財も適宜採用して活躍の場を提供することは、強力な組織を作る上で必須と考えています。